Illustratorで作ったデータを、印刷用の入稿データに変換する方法です。
印刷用の入稿データには、紙の裁断位置を指示する「トンボ(トリムマーク)」や、印刷ズレ防止のための「塗り足し」などが必要です。
今回は、印刷入稿で失敗しないための8つの入稿チェックリストをまとめてみました。
オフセット印刷(プロセス)とシルクスクリーン印刷(特色)では、入稿データの作り方が少し違うので、前半にオフセット印刷(通常の印刷)、後半にシルクスクリーン印刷(マグカップやTシャツなどへの特色印刷)の入稿データの作り方を紹介したいと思います。
入稿データ(版下)の作り方【8つのチェックリスト】
オンデマンド印刷やオフセット印刷など、今はオンラインで入稿ができる時代です。オンライン印刷のWebサイトでは、ほとんど入稿データ用のテンプレートが用意されていますが、ちゃんと意味を理解した上でテンプレを使っている方はどのくらいいるのでしょうか。
もし入稿データの作り方をマスターすれば、テンプレートを使わなくても自分で作った入稿データを色んな業者で使い回しできるわけです。その方が楽ですよね?
トンボ(トリムマーク)って何のために使うのか、塗り足しがないとどうなるのか、失敗しやすいデザインはあるのか、などなど、色々と解説していきたいと思います。
入稿データに不備がないよう、きちんとルールを守って入稿データを作っていきましょう。(ここで紹介する方法で作成すれば、どの業者でも対応できるはず)
1.Illustratorのレイヤーを結合する(デザインレイヤーのみ)
デザインをレイヤー分けしている場合は、一つのレイヤーに結合しておきましょう。理由は、印刷業者側でデータを処理する際、予期せぬトラブルに巻き込まれないためです。レイヤーロックの解除を忘れていたりすれば、なお危険度は上がります。
一つのレイヤーにまとめた後は「デザインデータ」とでも名付けておきましょう。レイヤーの結合方法は、レイヤーウィンドウのオプション「全てのレイヤーを結合」を選択すればOK。
トンボや指示書きなどは、デザインデータとは別のレイヤーに入れ、ロックをかけておきます。(テンプレートならすでに用意されているので必要なし)
2.オブジェクトやレイヤーのロックor非表示を解除しておく
オブジェクトのロックを頻繁に使う人は、必ずロックを解除しておきましょう。ロックされたままで入稿すると、印刷業者側の作業でミスが出る可能性が高まります。実際、ロックされているオブジェクトが印刷されなかったというトラブルにも遭遇したことがあります。
ロックや非表示モードを使う方は、必ず「オブジェクト > 全てのロックを解除」と「オブジェクト > 全てを表示」をしておきましょう。レイヤーロック(レイヤーの鍵マーク)は手動でしか解除できないので、最後にレイヤーの鍵マークが残っていないかも確認しておきましょう。目玉マークも同様、全部表示されている状態にしておきます。(レイヤー非表示の解除)
デザインデータ以外のレイヤー(トンボや色指示など)は、鍵をかけておいた方が無難ですが、必須ではありません。私は印刷して欲しくない情報は鍵かける派です。
3.文字やパスをアウトライン化する
テキストやブラシなどは、必ずアウトライン化しておきましょう。アウトライン化の方法についてはこちらで確認できます。
4.カラーモードをCMYKに変更する(ドキュメントと画像)
イラストレーターを新規作成するときに「Web」モードを選択している場合は、カラーモードをRGBからCMYKに変換しておきます。ドキュメントの名前タブで現在のカラーモードが確認できますので、一度ご確認を。
印刷用のデータは、必ずカラーモードをCMYKに変えておきます。メニュー「ファイル > ドキュメントのカラーモード」でCMYKにチェックを入れると変更できます。
データに画像を配置して使っている場合は、リンクしている元の画像データがCMYKになっているかも確認しておきます。画像はPhotoshopのメニュー「イメージ > モード」で確認できます。画像を埋め込み処理すれば、勝手にCMYKに変換されます。
補足:背景が透明の切り抜き画像はPSDで保存しておく
Photoshopで切り抜きした画像(背景が透明)は、必ずPSD形式で保存しておきましょう。JPEGで保存してしてしまうと、背景が白く塗りつぶされてしまうので注意。背景の透明を保持したいなら、保存形式は「psd」を選択しておきます。
5.画像の埋め込み処理orリンク配置の画像収集(同一フォルダへ集めるパッケージ処理)
データに配置されている画像データは、埋め込みにしておくか、リンク配置なら画像を一つのフォルダにまとめておきましょう。画像が埋め込まれているかどうかは、下記を参考にしてください。(バッテンがなければ埋め込みされている証拠)
画像の埋め込みは、イラレの上にあるコントロールバーから「埋め込み」ボタンを押せばOK。埋め込みたい画像を選択してから埋め込みボタンを押すように。
ほとんどの業者が埋め込みを推奨していますが、別に埋め込みじゃないといけないことはないです。私はいつもリンク配置で入稿していますが、全然問題ありません。(埋め込みでデータが重くなるのが嫌だから)
リンク配置で入稿する場合は、画像とイラレデータを一緒のフォルダに入れ、リンク切れを起こさないように処理することが大切です。イラレの便利な画像収集機能「パッケージ」を使ってリンク画像を指定したフォルダへ一気に集めます。(パッケージの場所:ファイル > パッケージ)
6.トンボを作る(トリムマークの作成)※裁断線
トンボ(トリムマーク)は、印刷物を指定サイズにカットするためにつける目印の線です(画像の青線部分)。仕上がり線とトンボの間には、ズレを目立たなくするための3mmの余白をつけるのが基本です(3mmトンボと言われている)。
印刷物の中心がわかるように、センターマーク(天地と左右についてる十字線)を一緒につけるのもポイント。イラストレーターでは簡単に3mmトンボが作れる「トリムマークを作成」という機能があるので、わざわざ3mmトンボを作る必要はありません。
イラストレーターで「トリムマークを作成」する手順
イラストレーターでトリムマークを作成するには、仕上がりサイズをきっちり作ることが大事です。
例えばA4サイズのトリムマークを作るなら、210mm×297mmの長方形を作り(間違えて印刷されないように透明線で作るのが望ましい)、メニューの「オブジェクト > トリムマークを作成」を選択すれば、3mmの余白がついたA4サイズのトリムマーク(トンボ)が完成します。
注意:一度作ったトリムマークは拡大縮小しないこと(3mmの余白サイズを守る)
一度作ったトリムマークを拡大&縮小すると、3mmの余白が崩れてしまいます。面倒ですが、トリムマークは使い回しせず、必ずサイズ変更後に作るようにしましょう。
注意:トリムマークはレイヤー分けしておく
トリムマークは、デザインデータとは別のレイヤーに分けておきましょう。デザインデータと一緒のレイヤーに入れてしまうと、間違えて印刷されることもあり得ます。間違い防止のため、トンボとデザインデータは必ずレイヤー分けしておきましょう。(トリムマークのレイヤー名は「トンボ」か「トリムマーク」にしておく)
7.仕上がり線を作る(アタリケイ、トムソンケイ)
仕上がり線(断ち切り線)のことを、アタリケイと呼びます(多分アタリをつけた罫線のこと)。
アタリケイは必須ではありませんが、印刷業者への指示として、また仕上がりのガイド線としてつけておきます。線は透明にしておくか、C100%やM100%など、明らかにデザインの一部ではないように作っておくといいです。レイヤーは非表示にしていてもOK。レイヤーを分け、名前を「アタリケイ」にしておけば印刷業者に伝わるはず。
アタリケイが必要なのは、特殊な型抜き加工(トムソン抜きなど)をするときです。円形やオリジナル型で切り抜く場合には、切り抜きのガイドラインとしてアタリケイ(トムソンケイ)が必要になってきます。
印刷で切れてほしくない文字情報などは、このアタリケイから内側3〜5mm以内に収まるようにデータを作っておきましょう。印刷には多少のズレが生じますので、せっかくのデザインが切れてしまわないよう注意しましょう。
外枠(縁、フレーム)デザインはオフセット印刷NG(ズレが目立つ)
裁断位置ギリギリにフレームがあるデザインは、基本的にオフセット印刷ではNGとされています。印刷の時に1〜2mmズレることがあるので、ズレが起きやすく、不良となってしまうからです。
3mm以下の細いフレームはズレると致命的に目立ちますが、太いフレームならそこまで目立たないので、フレームありのデザインを作るときは、必ず太いフレームでデザインを作りましょう。
オフセット印刷では綺麗な細いフレームをつけるのは難しいので、細いフレームを作りたい場合は活版印刷で縁版を作るか(これも難しそう)、小口染(縁印刷)という技法を使った方がいいと思います。
8.塗り足しをつける(左右天地3mm)
デザイン範囲全面に背景があったり、仕上がり線にかかるデザインがある場合、必ず3mmの塗り足しを追加しましょう。これは、裁ち落としによるズレと印刷によるズレ、両方を防ぐための保険です。塗り足しがないと、ズレたときに白い余白が出てきてしまい、かっこ悪くなってしまいます。
画像をマスク処理している場合でも、外枠を3mm伸ばしておきましょう。
特色印刷(シルクスクリーン印刷)の入稿データの作り方
特色印刷とは、1色のインクを使って印刷する技法のことです。ここではシルクスクリーン印刷を使った特色印刷の入稿データについて書きます。(オフセット印刷の1色印刷とはまた別の技法)
シルクスクリーン印刷は、主にTシャツやマグカップ、色紙への印刷などで利用します。オフセット印刷はCMYKの4色を使って印刷しますが、シルクスクリーン印刷の場合は1色ごとにメッシュ版を作るので、色分け(版分け)が必要になります。
版分けにはレイヤーを使いますので、イラストレーターを使ったデータは必須になります。
特色印刷(シルクスクリーン印刷)の版分け(レイヤーで色分けする)
シルクスクリーン印刷の特徴は、1色ずつ色を作り(調色といいます)メッシュ版を使って印刷していくことです。昔、自宅用の印刷機「Tシャツくん」みたいな機械ありましたよね?あれがわかりやすいんですが、インクをメッシュ版の上にのせて、ヘラみたいなのでインクを刷っていく、あの感じです。
例えば、最近入稿したこの「キラリカーリん」Tシャツ版のように、3色で作ろうと思うと1色ずつレイヤーを分けていく必要があります。
上が全体のデザインです。背景の黒は白い部分が見えるように引いているだけなので、通常は背景なしの方がいいです。
では、分けていきますね。白色で刷りたい部分は「ホワイト版」として一つのレイヤーに分離する。
お化けみたい。そして、次にイエローの版を作ります。イエロー版のレイヤー名には指定色の色版(DIC58s)をつけています。
最後にグリーンの版です。こちらはDIC131sでレイヤー指定。
シルクスクリーン版ではセンタートンボが版ズレを防ぐポイントになるので、全色が揃った全体版に対してセンタートンボをつけ、他の色の版にも同じ位置でトンボをつけること。印刷業者では、このセンタートンボを基準にインクを重ねていくので、トンボをレイヤーごとにずらしてしまうと、仕上がりがズレます。(レイヤーごとにトンボをつける)
そして、色別に版分けしたレイヤーにはこのように色指示をつけておき、
データの中にも色指示を書いておきます。
本来は、色の部分は「シアン、マゼンダ、イエロー」などの色で指示をするのですが、多分必須ではないと思う。(下の画像参照)
センタートンボも版と同じ色を使って作ります。まぁ、似たような色が多いようなイラストだと版分けがわかりにくいので、明確なのはこっちの方ですよね。どちらでも大丈夫だと思いますが、多分こっちのほうが正式な作り方(だった、昔は)。
イラストを作ったのはいいけど、色別に分けるのに苦労している方はイラストレーターの便利な機能「パスファインダー」を使えば簡単に版分け&レイヤー分けができますよ。こちらの記事で作り方載せてますので参考になれば。
最後に:入稿データは一つのフォルダにまとめ、圧縮して入稿すること
入稿用のデータが完成したら、画像も全て一緒のフォルダに入れ、圧縮します。この圧縮したデータを、メールに添付して送るなり、オンライン転送サービスにアップロードして送るなりして、印刷屋さんへ入稿します。
このとき、仕上がり用の確認PDF(画像でも可)も一緒に添付しておくと間違いを防ぐ元になります。データと確認用のPDFとを照合して、間違っていれば教えてくれる親切な業者さんもいます。セーフネットを何重にも張っておいて、印刷前にミスを防ぎましょう。